Cory Doctorowの「無視することの未来」

Cory Doctorowの『Content: Selected Essays on Technology, Creativity, Copyright, and the Future of the Future』より、”The Future of Ignoring Things” の日本語訳です。

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license
)です。


「無視することの未来」(原題: “The Future of Ignoring Things”)

著者: Cory Doctorow
日本語訳: Takashi Sasai

(このエッセイは2007年10月3日に、InformationWeekのInternet Evolutionで公開された)

この数十年間、コンピュータは僕らの記憶を助けてくれた。でも今こそ、僕らの無視を助けてくれるときだ。

メールについて考えてみよう: なんとかスパムを止めようと、エンジニアの時間が際限なく注がれている。でもスパムでないメッセージには、あまり気を配れていないんじゃないだろうか。メーラーは僕らがつけたレーティングから、そのメールがスパムか否かを懸命に学習しようとしているだろう。でもスパムでないメールのうち、どのメールが重要なのか、どのメールが無視したり、アーカイブフォルダに溜めておいたり、読まずに削除したりしても構わないのか、まで理解してくれはしない。

例を挙げよう。僕はずっと、ある激しいスレッドの Cc に入れられている。僕を話に参加させようと、友人がよかれと思って入れたんだろう。でも実のところ僕はもうこのスレッドにはほとんど興味がないんだ。最初に「みんなで町を出て、ディナーに出掛けよう」と招待されたときは、見ておくべきスレッドだったんだろう。でもね、その招待は断わったんだよ。だから、どこで食事するのがいちばんいいか、あれやこれや議論している300を超えるメッセージを読む必要は僕にはもうないんだ。

もちろん、自分でちゃんとメールルールを書けば、そのスレッドを無視することはできた。でもメールルールのエディタはださくて、リストが長くなるとどうしようもなくなってくる。まるで del.icio.us が現れる前のブックマークみたいだ。– メールルールというのはもともと、ボスからのメッセージを赤く目立たせたい人のために作られたものだ。無数のフィルターを管理するための貯蔵庫として使うためじゃない。フィルターはコンピュータに見たくないものを教えるためのお粗末な手段だよ。

O’Reilly Emerging Tech conference の前の議長で、IWantSandyというスタートアップの創業者でもある Rael Dornfest は以前、メーラーに次のような「スレッドを無視する」機能をつけようと提案していた: スレッドに「興味なし」というフラグをつけると、メッセージに自分の名前が入っていない限り、メーラーはそのサブジェクトやスレッドIDのメッセージを一週間隠してくれる。問題はスレッドの突然変異だ。先週ディナーの計画を議論していたスレッドが、今週は来年度のグループ休日を議論していたりする。もし一週間たってもまだスレッドがあるようなら、メッセージを受信箱に戻すんだ。1クリックすれば、見すごしたメッセージを全部取り戻せる。

僕らには、こうした無数の評価をして「見てすぐ削除」と「すぐに見せる」の間にあるグレーゾーンを作り出せるような適応システムが必要なんだ。

RSSリーダーは、Diggのような出入りの激しいサイトに次々投稿される新しい記事を追いかけるのにすぐれた方法だ。でも年に2回だけ更新される友人のすばらしい日記みたいな不定期サイトを追いかけるのにもかなり有効だ。だけどRSSリーダーは、めったに更新がない日記に奇跡的に新しい投稿があったことと、Slashdotから次々とやってくる最新のクリックネタとを区別してはくれない。サイトをどれだけクリックしたかで、RSSフィードをソートすることさえもしてくれない。

Usenetをすべて読める時代もあった。これは僕が学生で、現実逃避の口実を探していたからじゃない。かつてのUsenetはまだ僕らの手に負えるもので、やる気さえあれば全部読めたんだ。なのに今では、トラフィックの多い掲示板ひとつでさえ、ついていくことができないんだ。自分に届いたメールも全部読むことなんてできやしない。気に入っているサイトに投稿された記事を全部読むことなんてできやしない。読んでるWikipediaのエントリの編集履歴を全部読むことなんて、もちろんできないよ。こうした状況を何とかしようと、僕は真剣に取り組んできた。オフラインの世界で学んできた古くさい決定論的な、1から10まで決めるアプローチではなく、確率論に基づいた情報取得方法を使ってね。

これはTCP/IPに組み込まれている認識方法みたいなものだ。ネットワークはベストエフォートでパケットを配信をするだけで、ビット落ちしてもそれほど気にはしない。これと同じように、TCP/IPユーザもベストエフォートでインターネットを見るようにするんだ。そうして発見したすぐれたものから学ぶことに注力するんだ。調べる時間がないと嘆くんじゃなくてね。

ネットワークはもう僕らの手に負えるものではなくなった。オンラインでどれだけ僕らの注目を集めるか、奪い合いがおさまることはもうないだろう。たったひとつの解決策は、無視するためのもっとすぐれた方法や新しい技術を生み出すことだ。この分野はまだ生まれたばかりで、成長する可能性をたくさん秘めている。